第10回
[連載]蓄電池の地政学
▶変遷を遂げる製造業の勝ちパターン、蓄電池で勝つための新ルールとは
▶ 大串 康彦=産業戦略アナリスト / カウラ社 電力・エネルギー・スペシャリスト
製造業には勝ちパターンがあり、それは時代とともに変遷してきた。では、グローバルで熾烈(しれつ)な競争が繰り広げられている蓄電池で勝つために中国、そして欧米は何をしているのか。製造業の勝ちパターンの変遷をひもときながら、蓄電池で勝つための方策と日本の蓄電池産業への示唆を導く。
国際競争の中で一国の産業を振興するには、まず現在の競争環境を把握し、自国に適した戦略を構築することが必要となる。これは国に限らず、企業の場合でも同様だ。当たり前のことではあるが、どのようなゲームで戦っているかを理解した上でゲームに参加するということである。
蓄電池の用途の大部分を占める電気自動車(EV)の市場は、世界的に急成長を遂げており、蓄電池はすでに大量普及期に入っている。この段階では、第1の競争軸は価格である。品質も重要ではあるが、それは安全性や耐久性といった市場の要求を満たすための必要条件にすぎず、条件を満たした製品同士の競争は価格勝負となる。
では、価格を下げるにはどうすべきか。蓄電池の価格を支配する法則として知られる「経験曲線」を右下に下ることが鍵となる。具体的には、生産量を増やすことが必要だ(蓄電池の地政学 第7回『日本は蓄電池でDRAMや太陽光発電の「敗戦パターン」を再び繰り返すのか』参照)。これに加えて、現行の液系リチウムイオン電池とは異なる基盤技術(新しい材料や構造を持つ技術)を採用し、現在の経験曲線から非連続的に価格を引き下げるというアプローチもある。
中国企業は大規模な投資を通じて低価格を実現し、国際競争で優位に立っている。2022年時点で、中国の蓄電池製造能力は年間1000GWhを超えており、これは同年の欧州、米国、その他の国々の製造能力を合計したものの2倍以上に相当する。この圧倒的な生産規模が、中国企業の競争力を特徴付けている。。。