第9回
▶中国製蓄電池とEVを締め出した欧米は世界の主導権を取れるか
米国大統領選でトランプ氏が当選を決めた後、第2次トランプ政権の関税政策に注目が集まっている。しかし、電気自動車(EV)・蓄電池分野では米国大統領選以前に米国、カナダ、欧州連合(EU)がすでに相次いで、圧倒的な価格競争力を持つ中国製EVと蓄電池の関税率を上げ、中国製EV・蓄電池の排除に向かった。中国は現地生産に切り替えられるだろうか。また、中国を排除した後の欧米諸国はどのように電動化を進めるのだろうか。
中国製BEVは欧州に相当量が輸出されている
この状況を受け、2023年10月、EUは中国政府から補助金を受けて製造された安価なEVが域内市場での競争を阻害し、EUの産業に損害を与えているとの疑いで反補助金調査を開始した。EUによれば、2023年における欧州製BEVの平均販売価格は4万6000ユーロ(約736万円)であるのに対し、中国製BEVは3万ユーロ(約480万円)と大幅に安い価格で販売されていた。。。
▶ 大串 康彦=産業戦略アナリスト / カウラ社 電力・エネルギー・スペシャリスト
[連載]蓄電池の地政学
- 第1回:産業強化の焦点に浮上した蓄電池、世界覇権を巡る戦いの構図とは
再生可能エネルギーの普及や自動車の電動化などを背景に急拡大する蓄電池産業。覇権を狙って産業政策を強化する動きが、米中欧を中心に世界で活発化している。その動向は、蓄電池に関わるあらゆる業界に影響を与える可能性がある。
こうした状況を受けて本連載では、国内外の企業でエネルギー関連技術の開発に長く携わり、関連する産業政策や企業戦略に詳しい大串康彦氏が、蓄電池を巡る各国・地域の産業政策の動きを整理しながら覇権争いの行方に迫るとともに、蓄電池産業育成に向けた戦略のキーポイントを考察する。第1回は、イントロダクションとして蓄電池産業を巡る世界情勢を概観する。 - 第2回:大規模投資でサプライチェーンを席巻、蓄電池の世界覇権を狙う中国
蓄電池産業は再生可能エネルギーの導入拡大とモビリティーの電動化を背景に急拡大している。そこで本連載は、蓄電池をめぐる各国・地域の産業政策を分析し、覇権争いの構図を明らかにしていく。第2回は、世界シェアトップを走る中国を取り上げる。2015年の中国メーカーの車載用蓄電池の世界シェアは27.4%であったが、2023年上半期は62.6%と急速に拡大している。なぜ中国は世界市場を圧倒するポジションを築けたのか。 - 第3回:EUで「電池規則」が発効、蓄電池の国際覇権を狙う欧州の戦略とは
8月17日、EU(欧州連合)で「電池規則(Regulation(EU)2023/1542)」が発効した。規制などのルールメークによって、国際競争で優位に立とうとするのは欧州の常套手段。では、欧州は世界に先駆けて電池規則を導入し、どのように活用することで蓄電池をめぐるグローバル競争を勝ち抜こうとしているのだろうか。 - 第4回:EUはデジタル情報インフラで何を狙っている?先行事例は「電池規則」
EUがデジタル情報インフラと産業データ連携の仕組みづくりを加速させている。その先行事例が2023年8月17日に発効した電池規則である。電池規則は、蓄電池のサプライチェーンに対して地球環境問題関連の規則を定めただけでなく、EUのデジタル情報インフラ構築と運用の先行事例となりそうだ。そこで今回は、EUの産業データ連携の仕組みである「Gaia-X」やその配下の「Catena-X」と電池規則の関係性を解説する。 - 第5回:米国はインフレ抑制法でアジア勢を猛追、蓄電池シェア奪取なるか
蓄電池をめぐる各国・地域の産業政策を分析し、覇権争いの構図を明らかする本連載。第5回となる今回からは、2022年8月にインフレ抑制法(Inflation Reduction Act, IRA)が成立した米国を取り上げる。同法成立後、わずか1年で米国内に35もの蓄電池関連工場の建設が発表された。米国の国を挙げた猛追により、中国・韓国・日本が支配する蓄電池市場はあと数年のうちに大きく変わる可能性がある。 - 第6回:10年前に米国東部で起きた蓄電池ブームには、米国の強さが凝縮されている
今から10年近く前、2014~2016年ごろに米国東部で系統用蓄電池の導入ブームが起こっていた。当時はインフレ抑制法(Inflation Reduction Act, IRA)(前回記事参照)やFIT(固定価格買取制度)のような助成策もなければ、再生可能エネルギーの大規模導入に伴う定置式蓄電池のニーズも顕在化していなかった。この状況で、なぜ市場を立ち上げることができたのか。
第6回となる今回は、この事例を基に系統用蓄電池の分野で、米国が蓄電池産業の発展に必須である需要創出と市場開発をどう行ってきたのかに焦点を当てる。 - 第7回:日本は蓄電池でDRAMや太陽光発電の「敗戦パターン」を再び繰り返すのか
連載記事「蓄電池の地政学」の最終回となる今回は、蓄電池産業に関わる日本の動きを取り上げる。第1回で解説した通り、「産業強化」「カーボンニュートラル」「経済安全保障」の3つの側面から蓄電池産業をめぐる施策が欧米中を中心に活発化している。日本政府も2022年8月に 「蓄電池産業戦略」 を策定し、日本の蓄電池産業を強化する姿勢を示した。今後、日本の蓄電池産業は成長路線を描くことができるだろうか。過去の事例の分析も交えて考察する。 - 第8回:中国が席巻する蓄電池サプライチェーンを再構築する
本連載ではこれまでに、重要物資である蓄電池およびその原料の確保、国内産業の振興、世界市場の覇権を目的とした各国・各地域の戦略を分析する目的で、中国・欧州・米国・日本の政策や戦略を紹介してきた。この中で、蓄電池のサプライチェーンを掌握し、製造能力で他を圧倒する中国に対し、欧米が「電池規則」や「インフレ抑制法」などで対抗策を打ち出したという構造を示した。
今回は2024年5月13~14日にカナダ・トロントで行われた「Battery Minerals & Supply Chain」という国際会議で得た情報も含め、蓄電池のサプライチェーンに関する最新の動きをお伝えする。